台湾の名産品といえばいろいろあれど、まずお茶が第一にあげられるのではないか、と筆者は思う。例えば、台湾を代表するお茶である白毫烏龍茶は19世紀末にヨーロッパに輸出され、オリエンタル・ビューティーという名前で紅茶と混ぜて飲まれたという。現在でもこのお茶は台湾でしか生産することができず、今ではこの烏龍茶は東方美人茶とも呼ばれ、多くの人に愛飲されている。また、日本が台湾を植民地として統治していた時代には日本にも台湾で生産された烏龍茶を飲んでいたようだ。そのため、多くのポスターが残っている(写真(2)および(3))
台湾のお茶は台湾全土で生産されている。台北市内でも木柵(モクサク)というところはお茶の産地である。今回紹介するのは、坪林(ピンリン)と呼ばれる台北郊外にあるお茶の産地である。ここは文山包種茶の産地で有名なところである。この地名の由来は盆地(坪)と森林(林)に囲まれている自然環境から名付けられたという。台北縣と宜蘭縣の境界近くにあり、交通の便は決して良いところではない。台北市からはバスが1日10便ほどしか走っておらず、台北駅のバス停から約90分かかる場所にあり、ちょっとした小旅行である。バス停を降りると、近くには巨大な急須が迎えてくれる(写真(1))。
そのバス停から10分ほど歩いていくと、坪林茶業博物館というお茶に関する博物館がある。その博物館を目指すと、途中の川辺の堤防に「茶郷坪林」と大きくかかれた文字とパネルを見ることができる(写真(4))。堤防の上にあるのが坪林茶業博物館である。この博物館が設置されたのは、当時台湾省主席であった李登輝元総統が地方巡回していた際にこの地を訪れ、台湾茶業の一大生産地である坪林に茶業博物館を設置し、この地を観光資源として利用できるように指示したことによるという。事実、この地の主要産業は茶産業であり、住民の80%が何らかの形で茶業(茶農家、加工業など)に関わっているという。実際、町を少し歩くと、多くのお茶販売所や茶器販売所などお茶に関わる店が多くあることを知ることができる(写真(5))。ある店を見てみると、お茶の選別作業を行っていて、これもここでは当たり前の風景と言えるのだろう(写真(6))。 茶業博物館では総合展示館だけではなく、お茶の販売所や茶葉料理のレストランも備え、販売所ではお茶やお茶で漬けた茶梅など茶加工品などが販売されており、多くの観光客で賑わっている。一方、総合展示館でお茶の分類、時代ごとの製造方法、茶芸、台湾茶の発展史、世界の茶などの展示がされている。お茶の分類はおもに写真パネルであるが、製造方法では道具は実物、また人形などを使っていて、わかりやすくなっている。例えば、お茶を摘み取る風景では、手で摘む方法と2人で機械を使って摘む方法が対比的に示されている(写真(7))。
手で摘む場合、機械に比べて1度に摘むことができる量は少ないので、どうしても人件費がかかるという。そのため、近年では機械を使用して摘む量を増やしているらしい。その一方で、機械では摘まなくても良い茶葉まで摘んでしまい、その後の加工や選別で時間がかかるという問題も発生するという。このように、伝統的な方法と近代の方法が明示的に示され、台湾茶のことを理解できるような構成になっている。
また、お茶を摘んだ後の工程はその多くが機械で行うこともできる。ただし、室内萎凋という大きな竹かごに茶を発酵させるために放置する工程(写真(8)左側)は今でも機械化はできず、人の手を会して行われている。また、釜炒りの工程では機械を使用することもできるが、伝統的な方法では自らの手で釜炒りを行い、匂いや発酵度合いを見ながら判断する(写真(8)右側)。このような伝統的工法の茶加工は近年ではあまり見られない。当然、機械も展示されている(写真(9))。このような対比で拝観できるので、見ていて飽きない。
出来上がったお茶は農家で直接購入することもできるが、その多くは専門店で購入することになる。たとえば、台湾で最初にフランチャイズ制度ができたのはお茶からといわれていて、その始まりである天仁茗茶は台湾で知る人はいないという店である(写真(10))。早くから中国にも進出し、2001年に上海で開催された第9回APEC首脳会議で出されたお茶はこの店のものであり、上海では天福茗茶という名前で店舗を構えている(写真(11))。
筆者はチェーン店よりも個人経営の店に専ら行く。筆者が良く行くのは、陳煥堂先生という台湾では2人しかいない最高位の茶鑑定士のライセンスを持っている方が経営している店である。陳先生は茶鑑定士だけではなく、茶農家でもあり、出身地の南投縣では10大農家にも選出されたというまさにお茶の申し子と呼ぶべき方である(写真(12))。この時は初めて来た日本人客に対して、台湾茶の基本的なお茶の説明と試飲をされていた。すでに2冊の本を出版され( 写真(13) )、そのうちの右側は2001年6月の出版からわずか2年で11刷まで増刷され、台湾茶に関する本では最も読まれている本といわれている。訪問するたびに、珍しいお茶を飲ませてもらい、台湾茶の奥深さをいつも教えてくださる方である。
